衣料品・布業界の裏側にある問題と、私たちができる選択

見えない「服の重さ」

私たちの生活の中で、服を選ぶことはとても身近で当たり前の行為です。

季節が変われば新しい服が欲しくなり、流行が変われば「今っぽいもの」を手に取りたくなる。

セールのたびに「安いから」とつい買ってしまった経験も、誰にでもあるのではないでしょうか。

けれど、ある時から私はその「安さ」や「便利さ」の裏側を考えるようになりました。


ひとつの服がどこで、どのように作られ、誰の手を通ってここにあるのか。


オーガニックやサステナブルな暮らしを意識するようになり、蜜蝋ラップを作り始めたのも、まさに「日常の選択の裏側」に目を向けるようになったからです。

服の一枚一枚には目に見えない重さがある。それを知ってしまった以上、私はもう以前のように「気軽に買って、簡単に手放す」ことはできなくなりました。


環境への負担 ― 大量生産・大量廃棄の現実

衣料品業界は、石油産業に次ぐ環境負荷産業とも言われています。

たとえばコットンの栽培。

Tシャツ1枚を作るために必要な水は約2,700リットル。想像しにくい数字ですが、人が2年以上かけて飲む水の量に匹敵します。しかも農薬や化学肥料を多用することで、土壌や地下水が汚染され、農家の健康を脅かすこともあります。

合成繊維はどうでしょう。

ポリエステルやナイロンは石油からつくられます。洗濯のたびに細かい繊維が削れ、マイクロプラスチックとなって海に流れ出し、魚や鳥の体に取り込まれています。これはすでに私たちの食卓にも戻ってきている問題です。

そして忘れてはいけないのが、廃棄の問題。

流行や価格競争により生まれる大量の服の多くは、数回着られただけで捨てられます。日本だけでも年間数十万トンの衣類が廃棄され、その多くが焼却や埋め立て処分に回されます。燃やせば二酸化炭素を出し、埋めれば土壌や水を汚す。私たちの「着ては捨てる」習慣は、確実に地球に負担をかけています。


見えない労働の現場 ― 誰の犠牲の上に?

環境と同じくらい深刻なのが、人権・労働問題です。

私たちが安く服を手にできるのは、発展途上国の労働者が低賃金で働いているからです。
バングラデシュの縫製工場では、月給が数千円というケースも珍しくなく、1日12時間を超える労働も当たり前。労働環境は決して安全ではなく、2013年には「ラナ・プラザ崩壊事故」で1,100人以上の命が奪われました。耐震性のないビルに無理やり労働者を詰め込み、世界中のブランドの服を生産していたのです。

また、綿花栽培では児童労働が報告されています。小さな手で摘み取られた綿が、最終的に私たちのシャツやシーツになる。そうした現実を知ると、「ただ安いから」という理由で服を手に入れることが、とても重たい選択に思えてきます。


オーガニックと認証 ― 小さな光

すべての問題を一度に解決することはできません。けれど、私たちが選べるときに「より良い選択」をすることはできます。

  • オーガニックコットンは、農薬や化学肥料を使わずに育てられます。土を守り、農家の健康も守ります。さらに水の使用量も減らすことができます。
  • エコテックス認証は、有害な化学物質が含まれていないことを保証します。敏感肌や子どもにも安心です。
  • フェアトレード認証は、生産者に適切な賃金を支払い、児童労働や搾取を防ぐ仕組みを持っています。

こうした認証は「ただのマーク」ではありません。買う人の意思表示であり、産業に「こういうものを望んでいる」というメッセージを届ける手段でもあるのです。


自動化と労働の未来 ― 技術の両刃

最近は縫製の現場にもロボットやAIが導入され始めています。AIがデザインを提案し、ロボットが縫製する。効率化は進みますが、その一方で仕事を失う人が出てしまう可能性もあります。

「人の暮らしを守るための技術」となるのか、「人を切り捨てる技術」となるのか。そこに関わるのは企業の姿勢だけでなく、消費者である私たちが「何を選ぶか」にかかっているのだと思います。


私たちにできること ― 日常の小さな選択

「問題は大きすぎて、自分には何もできない」そう思ってしまう人もいるかもしれません。私も最初はそうでした。けれど、暮らしの中でできることは確かにあります。

  • 必要以上に服を買わない
  • 長く着る工夫をする(繕う、リメイクする)
  • 信頼できるオーガニックやフェアトレード製品を選ぶ
  • リサイクルやアップサイクルに参加する
  • 地域や小さな作り手を応援する

たとえ小さな行動でも積み重なれば、大きな力になります。

私自身は、日々の暮らしの中で「使い捨てを減らす」という視点から蜜蝋ラップを作り始めました。最初はキッチンの小さな実験のようなものでしたが、今では「暮らしの中でできること」を人に伝える一つの形になっています。布一枚、ラップ一枚の選択からでも、未来を変えるきっかけはつくれるのです。


選ぶことは未来をつくること

服を選ぶことは、自分の好みや気分を満たすだけの行為ではありません。


それは、地球の資源をどう使うか、誰の暮らしを守るか、どんな未来を残すかという「意思表示」でもあります。

私はまだ完璧にはできていません。

つい便利さに流されることもあるし、価格に惹かれることもあります。それでも一度知ってしまった以上、「より良い選択」を積み重ねていきたい。そうすればきっと、少しずつでも社会は変わるはずです。

大切なのは「完璧であること」ではなく「意識して選ぶこと」。


あなたが次に服を手に取るとき、その一枚の裏側にある「見えない物語」に思いを馳せてみてください。


その選択が、未来を変えていく一歩になると、私は信じています。